向みどり 1話 オートマティック



 日曜日スマホで、お出かけ情報を見るとアニフェスが駅前で開催されていることがわかった。昼過ぎに会場へ行ってみると大盛り上がり。コスプレの男女がたくさんいる。ステージではアニソンに合わせて踊っている子たちが5人。その中で一際目立っている男性の衣装をつけたヤツがいた。短い黒髪に青と白の派手な服。いきいきとした目と動きに惹きつけられた。会場の女の子たちは、その子がポーズを決めるたびにキャーキャー騒ぐ。僕はこんな美形にはかなわないなと、少し嫉妬を覚えた。でも足が細い。こいつ、女の子じゃないか? 隣に立っている女性に

「あの5人、全部女の子なんですか?」

「さあ、でも、そうみたいですね」

女子とわかると嫉妬は消え、その子メインに踊りを眺めていた。会場のど真ん中に赤とピンクの衣装を着た女子がノリノリで踊っている。心から楽しんでいる様子だが、どこか目に影があった。

次にステージに上がった子達も女子。公園で踊りを合わせていた女子の4人グループを見たことがある。近頃は女子の方が元気なのかなと少し思った。

 休憩時間があった。大勢が出店の方へ流れて行ったが、ある女性が目についた。長い黒髪の下の方が淡い緑に染まっている。黒のトップスに黒のロングスカート。4人がけのテーブルの横に立っている。テーブルには誰もついていない。僕はその前の長椅子の真ん中に座って、椅子の上にバックパックを下ろした。彼女が立っている方にだ。彼女がこちらを見る。僕も彼女を見る。2人は視線を外す。彼女の顔が少し赤くなっている。僕はバックパックを反対側に置き直して、彼女が座るスペースを作る。彼女は少しおどろいた様子だが、ためらいながら長椅子の端に座った。見ると真っ赤になっている。

「楽しいですね」

と声をかけた。

「そうですね」

彼女は緊張している。僕もうわずった声で

「どうです、これからコーヒーでも飲みに行きませんか?」

と言った。

「え、あ、よければ」

2人は会場を離れ、駅ビルのカフェに入って行った。

 僕たちはカフェで話をしている。

「藍田譲(あいだゆずる)と言います。よろしく」

「向(むかい)みどり、です。こちらこそ」

「あ、それで緑の髪に」

「ハハハ、そうなんです。緑が好きで」

「アニフェスどうでした?」

「楽しかったです。仕事のストレスが吹っ飛んじゃったような気がします」

「そうですよね。このビルのギャラリーで野鳥の写真展やってるの知ってますか?」

「はい、行ってきました。野鳥って見た目は綺麗だけど、本能で生きてるみたいで、内面が見えてこなかったです」

「そうですか。でも、優しそうとか強そうとか」

「そうなんですけど、人間みたいに内面の豊かさがあまり感じられなくて」

「そりゃ、そうでしょうけど」

「あたし心の豊かな人が好きなんです。それで婚活の一環としてナンパされたい感じを出すんですよ。フフフ」

「え、ナンパするような軽い男がいいと?」

「そうじゃないの。ナンパする人って、女心がわかるでしょ。つまり人の心がわかる。そんな人の方が幸せになれると思ってるの」

タメ口になっている。

「へえ、面白い人だ」

「あなた、今からどうする気?」

「どうって、そりゃあ、、、」

「あたし愛がなきゃ、もう嫌なの。相手のことを深く知って愛していないと」

「え、じゃあ今日はダメってこと?」

「うん」

僕はおあずけかと思ったが、この子って面白いなとも思った。

「じゃあさあ、付き合わない?」

「そうねえ、、、。それならいいわよ。エッチしてもオッケー。あたし、多分最初はエクスタシー感じないと思う」

ずいぶんぶっちゃけトークになってきた。

「そうかもね。僕も今まで何人かとエッチしてきたけどエクスタシーまで行った相手はそうはいないよ」

「ふ〜ん。あたし達同じ種族かもよ」

「種族って?」

「お互いに、本当の面白さを知ってるってこと」

「なるほどね」

「あたしの友達に、彼と会っても何も喋ることがないって子がいるの。そんなの最悪。それから、つまんない話を長々と聞かされたんじゃたまんないわ」

「わかるよ」

なんか面白いことになってきた。僕が求めていたのと違う。僕は不特定多数の女子とやるのが男の理想だと思ってきたけど、意外とそうじゃないのかなという気もする。

「じゃあ、早速行きましょうか」

「え?」

「何よ、ホテルよ」

「あ、ああ」

僕たちは駅ビルの3階のホテルへ向かった。僕たちがホテルに入る。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

カウンターで手続きを済ませ、カードで決済をすると、僕たちは部屋へ入った。大きなダブルベッド、白いシーツ、ダークブラウンの枕。僕たちはベッドの上にあぐらをかいてむかいあった。

「どうしたのよ、さっきから浮かない顔して」

「べつに」

「なんでここで盛り下がっちゃうのよ」

「そんなことはないよ」

「ひょっとしてあなた、他に好きな人がいるんじゃないの?」

感の鋭い子だ。

「いないよ」

「ふ〜ん」

彼女がベッドから降りてスカートをおろす。トップスを脱ぐ。黒のキャミソール。それも脱ぐ。ブラとパンティはうす緑色、ライトグレーのレースの縁取りがある。

「ボーッとしちゃって、あなたも脱いだら?」

「ああ、、下着も緑なんだね」

「ハハハ」

彼女がベッドに横になる。僕も。彼女のからだをしげしげとみる。完璧な白いボディー。やっぱり女のからだはいい。これが女だなぁと幸福な気持ちになりながらキスする。

「ブラはずしてくれる?」

「うん」

形のいい、少し大きめの胸、それに顔をうずめる。それから頬ずりしながら、そっと抱きしめた。

「あ、ちょっと待って、シャワー浴びてくるわ。あなたも一緒にどう?」

「そうだね」

僕たちは全裸でシャワーのお湯をたっぷり浴びながら、キスをし、抱き合った。シャワーが終わってバスタオルで体をふく、ときどきお互いにふきっこして、はしゃいだ。それからベッドに戻り

、、、、、

、、、、、

、、、、、

彼女が聞いた。

「よかった?」

「うん、君は?」

「よかったわ」

2人は目をみながら微笑みあった。また抱きしめてキスする。しばらくたわいもないピロートークをした。僕がたずねた。

「泊まっていくんだろ?」

「そうもいかないの。明日仕事だから」

「でも1人だけチェックアウトできる?」

「しまった、それ聞いてなかったわ。ちょっとフロントに電話してみる」

、、、、、

「OKだって、あぶなかったわ。じゃ、あたし帰るわね」

彼女が下着や服をつけるのをしげしげとみる。

「そんなに見ないで。ちょっと恥ずかしい」

「ごめん」

「大事なこと忘れてない?」

「なに?」

「電話番号よ」

「あっ」

「ん、もう。付き合う気あるの?」

「え? もちろんさ」

身じたくが終わって、電話番号を教え合うと、彼女は小さい白のショルダーバッグを肩にかけて、ドアに向かった。僕もドアまで見送る。彼女がドアを開ける。僕が

「まだ裸なんだから注意して」

と言うと、彼女はドアを大きく開けた。

「ワワワッ」

「ハハハ」

幸い人はいなかった。面白い子だなと思った。

「じゃあ、また」

「じゃあね」

僕はダブルベッドの上であお向けになり、白い天井を見ている。久しぶりだった、こんな幸せなひととき。それから余韻にひたっていた。

 2日後、向みどりから電話があった。

「こんにちは」

「やあ」

「このあいだはどうも」

おとついの彼女の裸体が目に浮かんだ。

「僕も電話しようかと思ってたんだ」

「そう、、実はあたし来週の水曜日、本の朗読会のイベントをやるのよ」

「へ〜」

「それで、あなたにきて欲しいの」

「う、うん、そりゃあ、、、」

「参加者は12人なの。募集は締め切ったんだけど1人増えても大丈夫」

「わかった、行くよ」

「うれしいわ。夜6時から、市立劇場の第2会議室」

「うん、あのさあ、その前に会ってくれないかなぁ」

「もちろんいいわ。でもイベントの準備で忙しいから、当日の昼間はどう?」

「夜はダメなの?」

「夜でもいいんだけど、なんとなく、やっちゃった後の2人が他の男女12人の中でどんな気分なのかなって興味があって」

「ハハハ、いいよ」

「じゃ、劇場のロビーでね」

「うん、じゃあね」

 当日、みどりが先に来ていた。白いTシャツに薄青色のダメージジーンズ。濃い緑の大きなショルダーバッグが床に置いてある。

「あ、来た来た」

「まった?」

「ううん」

ショルダーバッグに目線をやり

「緑がよっぽど好きなんだね」

「へへへ、、、ちょっと我慢できないの。近くのビジホ予約しといたから、行きましょ」

「あ、ああ」

僕たちはホテルで事を済ませると、5時過ぎに劇場へ戻り会議室に入った。彼女に言われるままに、一緒に机や椅子を並べ、お菓子や飲み物の準備をした。1人、2人と参加者が入って来た。おしゃべりが始まる。6時になった。みんな集まっている。みどりが立ち上がり、壁際のホワイトボードの前で話し始めた。

「皆さん常連の方々がほとんどですが、初めての方もいらっしゃいますね。向みどりといいます。よろしくお願いします。今日朗読する本は『オートマティック』というSFです」

朗読が始まった。みどりはときどき、心ここにあらずと言った、うつろな表情をする。僕も彼女のダメージジーンズから見える肌に目をやると、白い裸体が彼女の体にオーバーラップする。みどりはオートマティックに朗読しているようだ。僕と彼女はまるで、さっきのホテルでの続きをやっているかのように、2人だけのゾーンに入っていく。それでも朗読は手慣れたもので見事だ。艶のある声がさらに色気をましている。朗読が終わって拍手が起こる。彼女がポワンとした笑顔で話す。

「感想を書いていってくださいね」

1人の女性が言った。

「みどりさん今日はなんだか色っぽかったわ」

みどりが

「そうかしら、フフ、、、」

他の人達が言う。

「うん、そうそう」

「ハハハ、じゃあ、また今度。開催日はSNS見てください」

「は〜い」

みんなお互いに手を振ったりお辞儀したりしながら会場を出ていく。2人きりになった。みどりが話す。

「どうだった?」

「よかった」

「どういう意味で?」

「そりゃあ、君も感じていたんだろう?」

「うん」

2人は抱きあってキスする、、、きつく、、、さらにきつく、、、

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